「最近、夫婦の触れ合いがなくなった」「愛情はあるのに、なぜかそういう気持ちになれない」「このまま夫婦として大丈夫なのだろうか」。
セックスレスは、多くの既婚夫婦が抱える悩みの一つです。しかし、そのことを人には相談しづらく、「うちだけがおかしいのでは」と感じてしまう人も少なくありません。
けれども実際には、日本ではセックスレス状態、あるいはセックスレス傾向にある夫婦は非常に多く、もはや珍しいことではありません。
また、セックスレスは単に性欲がなくなったという問題ではなく、仕事や育児による疲労、会話不足、ストレス、更年期、身体的な問題、夫婦関係の変化など、複数の要因が重なって起こります。
本記事では、既婚夫婦にセックスレスが起きる理由、その背景にある心理や脳の働き、夫婦関係への影響、改善のヒントまでを、最新データと研究をもとに詳しく解説します。
セックスレスは珍しいことではない
日本では半数以上の夫婦がセックスレス傾向にある
日本では、セックスレスは決して珍しいことではありません。
レゾンデートル株式会社が2024年に行った調査では、20〜50代既婚者の68.2%が「セックスレス傾向」にあると回答しています。そのうち43.9%は「完全なセックスレス」、24.3%は「軽度のセックスレス」でした[1]。
また、日本家族計画協会とジェクスによる『ジャパン・セックス・サーベイ2024』では、「1か月以上性交渉がない」と回答した既婚者は男性64.2%、女性66.8%でした[2]。
さらに、「1年以上性交渉がない」と答えた人は男性45.3%、女性52.8%にのぼっています[2]。
こうした数字を見ると、日本では既婚者の半数以上が、何らかの形でセックスレス状態にあることがわかります。
それにもかかわらず、多くの人は「こんな悩みは自分たちだけではないか」と感じています。セックスレスは人に相談しづらく、表面化しにくいため、実際よりも“少数派の悩み”のように感じやすいのです。
セックスレスの定義は「1か月以上性交渉がない状態」
日本性科学会では、病気など特別な事情がないにもかかわらず、「1か月以上性交渉がない状態」をセックスレスと定義しています。
そのため、多くの調査でも「月1回未満」がセックスレスの基準として扱われています。
ただし、実際には回数だけで決まるわけではありません。
たとえば、半年に1回でも、夫婦双方が納得していて、会話やスキンシップが十分にあるなら、不満は少ないかもしれません。
逆に、月1回あっても、一方が義務感しか感じていなかったり、「求められていない」と感じていたりするなら、その人にとってはレス状態です。
つまり、セックスレスは単なる回数の問題ではなく、「関係性の中でどう感じているか」が重要なのです。
セックスレスでも仲が良い夫婦はいる
セックスレスというと、「愛情がない」「夫婦仲が悪い」と思われがちです。
しかし、実際には、セックスレスでも夫婦仲が良いケースは少なくありません。
特に50代以降になると、性的な関係よりも、会話、趣味、旅行、食事、日常の支え合いを重視する夫婦が増えます。
ジョン・ゴットマンの研究では、長く続く夫婦ほど、感謝や雑談、軽いスキンシップが多いことがわかっています[3]。
つまり、セックスレスかどうか以上に、「安心して話せるか」「信頼できるか」「一緒にいて心地よいか」が、夫婦関係の満足度を左右するのです。
セックスレスが起きる主な理由
仕事・育児・介護による疲労
セックスレスの最も大きな理由は、疲労です。
30代から50代の夫婦は、仕事、家事、育児、親の介護が重なりやすい時期です。特に共働き世帯では、帰宅後も食事の準備、洗濯、子どもの世話などがあり、夜には体力も気力も残っていないという人が少なくありません。
マイナビ子育ての調査では、子育て中の女性の37.7%が「1年以上夫婦生活がない」と回答しています[4]。
また、セックスレスの理由として最も多かったのは、「疲れている」「面倒」「子どもがいて時間がない」でした。
脳科学的にも、人は疲れているときには、生存や休息を優先するため、性的欲求が起こりにくくなります。
そのため、「愛情がないから」ではなく、「疲れていてその余裕がない」というケースは非常に多いのです。
会話不足とスキンシップ不足
夫婦の営みは、突然起きるものではありません。
日頃の会話やスキンシップが減ると、自然と夫婦生活も減っていきます。
話す内容が「家事」「子ども」「お金」だけになり、感情の共有がなくなると、夫婦は“生活共同体”にはなれても、“男女”としての関係を保ちにくくなります。
ジョン・ゴットマンは、満足度の高い夫婦は、日常の雑談、感謝、軽いスキンシップが多いと述べています[3]。
逆に、会話が減ると、「今さら誘いにくい」「断られたら傷つく」と感じるようになり、さらに距離が広がっていきます。
気づいたときには、何か月も触れ合っていない、という夫婦も少なくありません。
異性として見られなくなる
結婚生活が長くなると、相手を異性ではなく「家族」として見るようになります。
これは自然な変化ですが、その一方で、男女としての緊張感や新鮮さは失われやすくなります。
特に、夫婦でいる時間が長くなり、寝起きの顔、家事をしている姿、疲れた姿ばかりを見るようになると、恋人時代のような高揚感は薄れていきます。
エスター・ペレルは、『Mating in Captivity』の中で、「安心感」と「欲望」は両立しにくいと指摘しています[5]。
家族として安心できる相手ほど、異性としての刺激は感じにくくなるのです。
そのため、夫婦関係を長く続けるには、あえてデートをする、服装を変える、二人きりの時間を作るなど、“男女”として向き合う工夫が必要になります。
更年期やホルモンの変化
40代後半から50代にかけて、女性は更年期を迎えます。
女性ホルモンであるエストロゲンが減少すると、膣の乾燥、性交痛、性欲低下、不眠、イライラなどが起こりやすくなります。
男性も、加齢によってテストステロンが低下し、ED、疲れやすさ、気力の低下が起こります。
これらは自然な身体の変化ですが、夫婦はそれを「愛情がなくなった」「拒絶された」と誤解しやすい傾向があります。
しかし実際には、本人も「したくないわけではないけれど、身体がついていかない」と悩んでいることが少なくありません。
そのため、更年期やホルモン変化について、夫婦がお互いに理解することが大切です。
EDや性交痛など身体的問題
セックスレスの背景には、身体的な問題もあります。
女性では、性交痛、膣の乾燥、子宮筋腫、婦人科疾患などが原因になることがあります。
男性では、ED、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、睡眠不足、ストレスなどが関係します。
日本では、EDは40代男性の20〜30%、50代男性の40%前後にみられるともいわれています。
こうした問題を放置すると、「拒絶された」「愛されていない」と誤解されやすくなり、夫婦関係が悪化する原因になります。
最近では、婦人科、泌尿器科、更年期外来、性機能外来などで相談できるようになっており、薬や治療によって改善するケースも増えています。
愛情があるのに触れ合えない理由

愛情と性欲は同じではない
夫婦の間では、「愛情があるなら触れ合えるはず」と考えがちです。
しかし、愛情と性欲は同じではありません。
相手を大切に思っていても、疲れていたり、ストレスが強かったり、身体の不調があったりすると、性的な気持ちは起こりにくくなります。
また、長年連れ添った夫婦では、「家族としての安心感」は増えても、「異性としての欲望」は自然と弱くなることがあります。
これは愛情がなくなったわけではなく、関係の形が変わっているということです。
だからこそ、「触れ合えない=愛されていない」と決めつけないことが大切です。
ストレスが欲求を抑えてしまう
ストレスは、性欲を大きく下げる要因です。
仕事のプレッシャー、人間関係、育児、介護、経済的不安など、慢性的なストレスが続くと、脳は生存や安全を優先します。
その結果、性的な欲求を司るホルモンや神経伝達物質の働きが低下します。
特に、ストレスホルモンであるコルチゾールが高い状態が続くと、性欲を支えるテストステロンやドーパミンが減りやすくなります。
つまり、「したくない」のではなく、「脳と身体がその状態になれない」ことが多いのです。
「拒絶された」と感じる悪循環
セックスレスが長引くと、夫婦はお互いに傷つきやすくなります。
誘った側は、「拒絶された」「愛されていない」と感じます。
一方で、断った側も、「責められている」「プレッシャーを感じる」と思うことがあります。
すると、誘う側はさらに傷つき、断る側はさらに避けるようになり、悪循環が生まれます。
この状態が続くと、会話やスキンシップまで減り、夫婦関係全体がぎくしゃくしていきます。
本当は愛情が残っていても、「どう接していいかわからない」という状態になってしまうのです。
セックスレスが与える心理的影響
孤独感と自己肯定感の低下
セックスレスになると、「求められていない」「異性として見られていない」と感じる人がいます。
特に女性は、「女性としての魅力がなくなったのでは」と感じやすく、自己肯定感が下がることがあります。
また、男性も、「男として失格なのでは」「拒絶された」と感じ、傷つくことがあります。
つまり、セックスレスは単なる行為の有無ではなく、自分の価値や存在意義に関わる問題として感じられやすいのです。
会話やスキンシップまで減っていく
セックスレスが長引くと、キス、ハグ、手をつなぐことなど、日常のスキンシップも減りやすくなります。
その結果、夫婦は“同居人”のようになり、「一緒にいるのに孤独」という感覚が強くなります。
最初は疲れや忙しさが原因だったとしても、時間が経つにつれて、「今さら触れにくい」「断られたら怖い」と感じ、さらに距離が広がっていきます。
不倫や婚外恋愛につながることもある
セックスレスそのものが不倫の原因になるわけではありません。
しかし、孤独感や承認欲求が強い状態が続くと、外に心の居場所を求めやすくなります。
「誰かに話を聞いてほしい」「女性として見られたい」「異性として求められたい」という気持ちが、恋愛感情に発展することもあります。
最近は、既婚者同士が趣味や価値観でつながるコミュニティや、人生後半の孤独について話せる場に関心を持つ人も増えています。
離婚理由になるケースもある
セックスレスは、法律上も離婚理由の一つとして認められることがあります。
ただし、離婚に至る夫婦の多くは、セックスレスそのものよりも、「話し合えない」「気持ちを共有できない」ことに苦しんでいます。
一方だけが我慢している状態が長く続くと、「自分は大切にされていない」と感じやすくなります。
だからこそ、回数よりも、「どう感じているか」を言葉にすることが重要なのです。
関係を改善するために必要なこと

回数ではなく気持ちを話し合う
セックスレスを改善しようとするとき、多くの人は「回数を増やさなければ」と考えます。
しかし、本当に必要なのは、まず気持ちを共有することです。
「寂しかった」「断られて傷ついた」「疲れていて余裕がなかった」。そうした本音を話せるようになると、夫婦関係は少しずつ変わっていきます。
責めるのではなく、「私はこう感じている」と伝えることが大切です。
日常の会話とスキンシップを増やす
いきなり夫婦生活を再開しようとすると、プレッシャーになります。
まずは、会話や軽いスキンシップから始める方が自然です。
一緒に食事をする、手をつなぐ、隣に座る、感謝を伝える。そうした小さな積み重ねが、安心感を取り戻すきっかけになります。
脳科学では、触れ合いによってオキシトシンが分泌され、信頼感や安心感が高まることがわかっています。
医療やカウンセリングを活用する
性交痛やED、更年期など、身体的な問題が背景にある場合は、医療機関に相談することも大切です。
婦人科、泌尿器科、更年期外来、夫婦カウンセリングなどを活用することで、改善するケースは少なくありません。
また、第三者が入ることで、お互いに本音を話しやすくなることもあります。
二人だけで抱え込まず、専門家の力を借りることは、決して特別なことではありません。
家族以外のつながりを持つ
夫婦関係だけに全てを求めると、うまくいかないときに孤独感が強くなります。
友人、趣味、コミュニティ、仕事仲間など、家族以外にも安心できる人間関係を持つことは大切です。
特に40代以降は、子育てが落ち着き、自分の時間を持ちやすくなる時期でもあります。
夫婦関係を良くするためにも、まずは自分自身の世界を持つことが必要なのです。
Q&A
- Qセックスレスはどこからですか?
- A
一般的には、1か月以上性交渉がない状態を指します。ただし、回数よりも本人の満足度が重要です。
- Qセックスレスは愛情がないということですか?
- A
そうとは限りません。疲労、ストレス、更年期、身体的な問題などが原因の場合も多くあります。
- Qセックスレスは改善できますか?
- A
会話、スキンシップ、生活習慣の見直し、医療機関の活用などによって改善するケースは多くあります。
- Qセックスレスだと不倫しやすくなりますか?
- A
必ずではありませんが、孤独感や承認欲求が強い状態が続くと、外に心の居場所を求めやすくなることがあります。
参考文献
[1] レゾンデートル株式会社「夫婦のセックスレスに関する実態調査」2024年 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000104522.html
[2] 日本家族計画協会・ジェクス「ジャパン・セックス・サーベイ2024」2024年 https://www.jex-sh.jp/pdf/japan_sex_survey/sexsurvey2024.pdf
[3] John Gottman『The Seven Principles for Making Marriage Work』1999年
[4] マイナビ子育て「産後の夫婦生活アンケート」2024年 https://kosodate.mynavi.jp/articles/31740
[5] Esther Perel『Mating in Captivity』2006年
[6] Helen Fisher『Why We Love』2004年
[7] 日本性科学会「セックスレスの定義と実態」
執筆者プロフィール
ペンネーム:凪沢ゆかり
夫婦関係、既婚女性の孤独、人間関係、人生後半の生き方をテーマに執筆するライター。心理学、脳科学、家族社会学の研究や調査をもとに、女性誌風の読みやすい記事を手がけている。


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