なぜ長く一緒にいるほど欲望は失われていくのか。愛情、安心感、家族化の先にある「他者性」の重要性
日本では、夫婦仲は悪くないのに、性的な関係が消えていく夫婦が増えている。
日本家族計画協会とジェクスの「ジャパン・セックス・サーベイ2024」では、婚姻関係にある夫婦の64.2%がセックスレス状態にあると回答した[1]。
ただし、その多くは「嫌いになった」「離婚したい」というわけではない。
会話はある。家族としての信頼もある。子どものことや生活も協力している。だが、異性としての感覚だけが消えていく。
ベルギー出身の心理療法家・夫婦関係研究者であるエスター・ペレル(Esther Perel)は、こうした「セックスレス」につながる現象を単純な性欲低下から生じるものとは考えていない[2]。
ペレルは、現代人は一人のパートナーに対して、親友、家族、知的な会話相手、良き親、経済的パートナー、唯一の性愛対象、精神的な支えという、かつては共同体全体に求めていた役割をすべて期待している、と指摘する。
つまり、現代の夫婦は「近すぎる」のかもしれない。
本記事では、ペレルが提唱する「エロティック・インテリジェンス(Erotic Intelligence)」を軸に、日本の既婚男女が学ぶべき視点を整理する。
現代の夫婦は、一人の相手に求めすぎている
かつて、人は配偶者だけにすべてを求めていたわけではなかった。
仕事の悩みは職場の同僚や友人に話し、子育ては親族や近所が支え、孤独は地域コミュニティや趣味の集まりが埋めていた。
しかし現代では、核家族化が進み、地域とのつながりも弱くなった。
その結果、多くの人はパートナー一人に対して、あまりにも多くの役割を求めるようになった。
親友でいてほしい。理解者でいてほしい。経済的にも支えてほしい。子育ても協力してほしい。会話も面白くあってほしい。性的にも魅力を感じ続けたい。
ペレルは、この「一人の相手に全てを求める構造」が、現代の結婚を難しくしていると指摘する[2]。
現実には、どれほど相性のよい相手でも、すべての期待を満たし続けることはできない。
特に日本では、夫婦が家庭と仕事だけの世界に閉じやすい。
友人と会う時間が減り、趣味もなくなり、地域とのつながりも薄くなる。
そうなると、夫婦は互いに過剰に依存しやすくなる。
相手に期待しすぎるほど、不満も増える。
「わかってくれない」「会話がない」「異性として見てくれない」という不満は、実は夫婦だけに関係を集中させすぎた結果でもある。
長期にわたる夫婦関係では、「夫婦だけで完結しようとしないこと」が、関係を長持ちさせる重要な視点になる。
愛と欲望は、そもそも別の方向を向いている

ペレルは、愛(love)と欲望(desire)は同じではないと説明する[2]。
愛は、安心、安定、一体感を求める。
一緒にいたい。信頼したい。守られたい。予測できる関係でありたい。
一方、欲望は、新奇性、距離、神秘性、未知を必要とする。
つまり、愛は「近づきたい」という感情であり、欲望は「少し離れた相手に惹かれる」という感情でもある。
この矛盾が、長期関係を難しくする。
人は、完全に予測できる相手を欲し続けるのが難しい。
恋愛初期に相手に惹かれるのは、相手がまだ自分のものではないからである。
何を考えているか分からない。どんな人かまだ知らない。会えない時間がある。その不確実性が、想像力を刺激する。
恋愛初期には、ドーパミン(dopamine)が強く分泌される。ドーパミンは、「まだ手に入っていないもの」「予測できないもの」に強く反応する[3]。
しかし、長期関係では、ドーパミンよりもオキシトシン(oxytocin)が優位になる。これは安心感や愛着を支えるホルモンである。
つまり、長期関係は「落ち着く」には向くが、「高揚する」には向きにくい。
だからこそ、長く一緒にいる夫婦ほど、意識的に新鮮さをつくる必要がある。
欲望は「相手を知らない部分」がある時に生まれる
ペレルは、世界中のカップルに「あなたが最もパートナーに惹かれた瞬間はいつか」と質問した。
その答えには共通点があった。
相手が仕事で生き生きしている時。舞台や人前で堂々としている時。趣味に熱中している時。自分の知らない人間関係の中で輝いている時。他人から魅力的に見られている時。
つまり、人は「完全に知っている相手」より、「まだ知らない部分が残っている相手」に惹かれやすい。
日本の夫婦は、相手を「生活の一部」として見すぎる傾向がある。
朝起きて、仕事に行き、帰宅し、家事や育児をこなし、疲れて寝る。相手の姿は、常に疲れた日常の中にある。
すると、相手が「異性」ではなく、「役割」になる。
夫は、父親、稼ぎ手、家事をしない人。妻は、母親、家事担当、文句を言う人。
その役割だけで相手を見るようになると、相手に対する想像力が失われる。
欲望を維持するには、相手を「知り尽くした存在」にしないことが重要である。
少し離れた時間を持つ。趣味を持つ。別々の友人関係を持つ。相手が自分とは違う世界を持っていることを許容する。
そうすることで、人は再び相手を「他者」として見ることができる。
日本の既婚男女は、「性欲」ではなく「承認」を失っている
日本の30〜50代夫婦では、セックスレスは単なる性欲低下ではない。
多くの場合、その背景には「異性として見られていない」という感覚がある。
女性は、「母親」「家事担当」「妻」という役割だけになり、自分が女性として扱われなくなったと感じやすい。
男性は、「ATM」「父親」「仕事をする人」という役割だけになり、自分が男として必要とされていないと感じやすい。
中年期は、誰にとっても自己肯定感が揺らぎやすい時期である。
体型は変わり、疲れやすくなり、性機能も落ちる。仕事では将来不安が増え、子どもは親離れし始める。
その中で、「まだ魅力があると思われたい」「異性として見られたい」という感情は、むしろ若い頃より強くなる。
だからこそ、既婚者が異性との会話や、ちょっとした承認に惹かれやすくなる。
必ずしも不倫したいわけではない。
ただ、「まだ終わっていない」「まだ魅力がある」と感じたい。
ペレルは、不倫の背景には「別の相手が欲しい」のではなく、「別の自分になりたい」という欲求があると指摘している[4]。
つまり、多くの既婚者が求めているのは、性そのものより、「生きている感覚」なのかもしれない。
エロティック・インテリジェンスとは「距離感」を学ぶ技術
ペレルは、長期関係の中で欲望を維持する力を「エロティック・インテリジェンス(Erotic Intelligence)」と呼んでいる[2]。
これは単に性欲が強いことでも、性生活のテクニックが豊富なことでもない。
長く一緒にいる相手に対しても、想像力、好奇心、他者性を保ち続ける力のことである。
多くの人は、「良い夫婦とは、何でも共有し、何でも話し、常に一緒にいる関係だ」と考えている。
もちろん、安心感や信頼感は、長期関係にとって重要である。
しかし、ペレルは「安心感だけでは欲望は維持できない」と指摘する。
愛は、近づくことで深まる。
だが、欲望は、近づきすぎると弱くなる。
恋愛初期を思い出すと分かりやすい。
人は、相手のことをまだよく知らない時に、強く惹かれる。
相手が何を考えているのか、どんな人なのか、自分をどう思っているのかが分からない。
会えない時間があり、想像する時間がある。
その「分からなさ」が、脳に刺激を与える。
人類学者で恋愛研究者のヘレン・フィッシャー(Helen Fisher)は、恋愛中の脳活動を分析しているが、恋愛初期にはドーパミンが大量に分泌され、報酬系が活性化すると説明している[3]。
つまり、欲望は「未知」と結びついている。
しかし、結婚生活が長くなると、相手の行動や感情は予測できるようになる。
どんなことで怒るのか、どんな服を着るのか、どんなことを考えるのか、何を食べるのか、ほとんど分かってしまう。
予測可能性は安心感をもたらす一方で、欲望の源である「未知」を減らしてしまう。
ペレルは、欲望を維持している夫婦には共通点があると述べる。
それは、相手を完全に所有しようとしないこと、自分自身も相手にすべてを明け渡さないこと、夫婦の間に適度な距離感を保っていることである。
たとえば、趣味や仕事、友人関係など、自分だけの世界を持っている。何でも共有しすぎない。少し秘密を残す。相手が自分の知らない場所で生き生きしている姿を見る。
その瞬間、人は相手を「家族」ではなく、「一人の魅力的な他者」として再び見直すことができる。
ペレルは、「欲望には空間が必要だ」と繰り返し述べている[2]。
近づきすぎると、人は相手を管理対象にしてしまう。
夫婦関係が長くなると、相手を見る視線は「今日は何時に帰るのか」「ゴミを出したか」「子どもの送り迎えはどうするか」といった実務的なものに変わりやすい。
相手は、生活を回すための役割になっていく。
しかし、人は役割に欲情しない。
父親、母親、家事担当、稼ぎ手としてしか見られなくなった時、相手は「異性」ではなくなる。
だからこそ、長期関係では、夫婦の中に「まだ知らない部分」を残すことが重要になる。
また、ペレルは、性愛はベッドの中だけで成立するものではないとも指摘している。
日常の会話、感謝、ユーモア、視線、服装、ちょっとした褒め言葉、手をつなぐこと、相手を尊重すること。こうした日常の積み重ねが、「まだ異性として見られている」という感覚につながる。
セックスレスの夫婦の多くは、性生活だけでなく、日常会話やスキンシップも減っている。
アメリカの心理学者で夫婦関係研究者ジョン・ゴットマン(John Gottman)は、幸福度の高い夫婦ほど、日常の小さな肯定表現が多いことを示している[6]。
つまり、エロティック・インテリジェンスとは、性の技術ではなく、長期関係の中で相手を他者として見続ける想像力の技術なのである。
日本の既婚男女が学ぶべき7つのこと
1.夫婦だけにすべてを求めすぎない
現代人は、配偶者一人に対して多くを求めすぎている。
親友であり、家族であり、経済的パートナーであり、子育ての協力者であり、唯一の性愛対象でもあってほしい。
しかし、一人の相手がそれらすべてを完璧に満たし続けることは難しい。
だからこそ、夫婦以外の世界を持つことが重要になる。
趣味、友人、仕事以外の居場所、地域コミュニティ、学びの場。夫婦の外に複数の人間関係がある方が、夫婦関係に過剰な期待を抱きにくい。
ハーバード大学精神科医で幸福度研究者のロバート・ウォールディンガー(Robert Waldinger)は、幸福な人生には多様な人間関係が必要だと述べている[5]。
夫婦だけに依存しすぎると、相手に対する不満や孤独感も増えやすい。
2.会話と感謝を「前戯」と考える
ペレルは、前戯はベッドの中ではなく、日常生活の中から始まっていると説明している[2]。
夫婦の間で会話が減り、感謝がなくなり、業務連絡だけになると、性的な親密さも急速に失われる。
「ありがとう」「助かった」「その服似合うね」といった小さな肯定表現は、相手に「まだ異性として見られている」という感覚を与える。
先に挙げたゴットマンの研究でも、幸福度の高い夫婦は、否定的なやり取りよりも肯定的なやり取りが圧倒的に多い[6]。
会話不足は、単なるコミュニケーション不足ではない。
相手に対する興味の低下であり、親密さの土台を失うことでもある。
3.何でも共有しすぎない
多くの人は、隠し事のない関係が理想だと考えている。
しかし、何でも共有することと、何もかもを把握することは違う。
相手のスマホ、スケジュール、交友関係、考え方まで、すべてを知ろうとすると、相手への想像力は失われる。
ペレルは、「欲望には秘密が必要だ」と述べている[2]。
もちろん、不誠実であるべきという意味ではない。
だが、夫婦であっても、一人で考える時間や、自分だけの趣味、自分だけの交友関係を持つ方が、相手への興味は持続しやすい。
少し距離があるからこそ、人は相手を再び見直すことができる。
4.相手を役割ではなく、一人の他者として見る
長年一緒にいると、相手は役割化しやすい。
夫は、父親、稼ぎ手、家事をしない人。妻は、母親、家事担当、感情的な人。
しかし、役割だけで相手を見るようになると、相手の中にある魅力や未知が見えなくなる。
ペレルは、人は相手を「知らない存在」として見られる時に、欲望を感じやすいと説明している[2]。
仕事で頑張っている姿、趣味に没頭している姿、他人と話している姿を見ると、夫婦は相手を再び魅力的に感じやすい。
相手を父母役割だけで固定せず、一人の人間として見続けることが重要になる。
5.非日常を意識的につくる
欲望は、日常の繰り返しの中では弱くなりやすい。
同じ場所、同じ服装、同じ会話、同じ休日の過ごし方が続くと、相手は生活の一部になる。
だからこそ、意識的に非日常をつくることが必要になる。
旅行に行く。普段と違う服を着る。新しいレストランに行く。夫婦だけで出かける。ホテルに泊まる。新しい趣味を始める。
脳は、新しい刺激に対してドーパミンを出しやすい[3]。
つまり、非日常は単なる気分転換ではなく、夫婦関係に新鮮さを取り戻す手段でもある。
6.性を義務や評価にしない
日本の夫婦は、セックスを「回数」で評価しやすい。
週何回が普通か、どちらが拒否したか、EDか、更年期か、といった話になりやすい。
しかし、性は本来、義務でも評価でもない。
特に中年以降は、疲労、更年期、ホルモン変化、睡眠不足、ストレスによって性欲や性機能は変化しやすい。
重要なのは、「回数」よりも、「まだ異性として見ているか」である。
スキンシップ、会話、手をつなぐこと、隣に座ることも親密さである。
性を義務にすると、相手はますますプレッシャーを感じる。
7.「まだ終わっていない」と感じられる関係をつくる
中年以降、多くの人は「もう自分は異性として魅力がないのではないか」と感じやすい。
体型の変化、老化、性機能の低下、役割化によって、自信を失う。
だからこそ、「まだ魅力がある」「まだ必要とされている」と感じられることは、自己肯定感に直結する。
異性として見られている感覚は、性だけでなく、生きる活力にもつながる。
夫婦関係の中で、相手を褒めること、感謝すること、名前で呼ぶこと、少しおしゃれをすることは、小さなことのようで大きな意味を持つ。
まとめ

日本の既婚男女は、「愛しているのに欲望がない」という矛盾に悩みやすい。
だが、それは異常ではない。
愛は、安心と安定を求める。一方、欲望は、距離と未知を必要とする。
だからこそ、長期関係では、ただ仲良くするだけでは不十分である。
相手に少し距離を持つこと。相手を「まだ知らない部分がある他者」として見ること。夫婦だけにすべてを求めないこと。
エロティック・インテリジェンスとは、単なる性の技術ではない。
長く一緒にいる相手に対して、想像力を持ち続けるための知性なのかもしれない。
Q&A
- Q愛情はあるのに欲望だけがなくなるのは異常ですか?
- A
異常ではありません。むしろ、多くの長期夫婦に自然に起きる現象です。ベルギー出身の心理療法家エスター・ペレルは、愛と欲望はそもそも別の方向を向いていると説明しています。愛は安心、安定、一体感を求めますが、欲望は新奇性、距離、神秘性、未知を必要とします。つまり、愛は「近づきたい」という感情であり、欲望は「少し離れた相手に惹かれる」感情なのです。脳科学的にも、恋愛初期は「まだ手に入っていないもの」に反応するドーパミンが優位ですが、長期関係では安心感や愛着を支えるオキシトシンが優位になります。そのため、長期関係は落ち着くには向いても、高揚するには向きにくいのです。相手のことが隅々までわかってしまうと、想像力を刺激する「未知」が減り、欲望は弱まります。これは夫婦仲が悪いからではなく、近づきすぎた結果です。だからこそ、意識的に距離をつくり、相手を「まだ知らない部分がある他者」として見続けることが、長期関係には必要なのです。
- Qセックスレスは性欲低下が原因ではないのですか?
- A
性欲低下は一因ではありますが、それだけではありません。日本家族計画協会とジェクスの「ジャパン・セックス・サーベイ2024」によれば、婚姻関係にある夫婦の64.2%がセックスレス状態にあります。しかし、その多くは「相手を嫌いになった」「離婚したい」というわけではありません。会話もあり、信頼もあり、生活協力もしている。それでも性的な感覚だけが消えていくのです。エスター・ペレルは、この背景には「異性として見られていない」という感覚があると指摘しています。女性は「母親」「家事担当」「妻」という役割だけになり、男性は「稼ぎ手」「父親」「仕事をする人」として見られるようになる。役割化が進むと、人は相手を異性として認識しにくくなります。さらに、中年期は疲労、更年期、ホルモン変化、ストレスなどが重なる時期でもあり、性機能そのものも変化します。つまり、セックスレスは単なる性欲の問題ではなく、夫婦関係の近さすぎ、役割化、承認不足が複雑に絡んだ現象なのです。
- Q既婚者が異性との会話に惹かれるのは浮気願望ですか?
- A
必ずしも浮気願望とは限りません。エスター・ペレルは、既婚者が外の異性に惹かれる背景には、「別の相手が欲しい」のではなく、「別の自分になりたい」という欲求があると指摘しています。中年期は、体型の変化、性機能の低下、役割化、仕事の将来不安などによって、自己肯定感が揺らぎやすい時期です。その中で、「まだ魅力があると思われたい」「異性として見られたい」という感情は、むしろ若い頃より強くなります。家庭では妻や母、夫や父という役割だけで見られ、一人の人間として承認される機会が減っていく。その時に、異性との自然な会話や、ちょっとした褒め言葉に触れると、「まだ終わっていない」「まだ生きている」という感覚を取り戻せるのです。多くの既婚者が本当に求めているのは、性そのものよりも、「生きている感覚」「異性として認められる感覚」です。それ自体は、人として自然な欲求であり、自分を責める必要はありません。大切なのは、その気持ちの奥にある本音を理解することです。
- Q夫婦だけですべてを満たそうとしてはいけないのですか?
- A
現代の夫婦関係がうまくいかなくなる大きな原因の一つが、「一人の相手に求めすぎている」ことです。エスター・ペレルは、現代人は配偶者一人に対して、親友、家族、知的な会話相手、良き親、経済的パートナー、唯一の性愛対象、精神的支えという、かつては共同体全体に求めていた役割をすべて期待していると指摘しています。しかし、どれほど相性のよい相手でも、それらすべてを完璧に満たし続けることは現実的に不可能です。ハーバード大学の成人発達研究でも、幸福な人生には多様な人間関係が必要だと示されています。夫婦だけに依存すると、相手への期待が膨らみすぎ、不満や孤独感も増えます。逆に、友人、趣味、仕事以外の居場所、地域コミュニティ、同じ立場の人と話せる場など、複数の人間関係を持つ人ほど、夫婦関係そのものにも余裕が生まれます。近年、既婚者向けのコミュニティやマッチングサービスに関心を持つ人が増えている背景にも、こうした「夫婦だけで閉じない関係性」へのニーズがあります。夫婦以外の世界を持つことは、夫婦関係を守るためにも有効なのです。
- Q長期夫婦が欲望や新鮮さを取り戻すにはどうすればよいですか?
- A
エスター・ペレルが提唱する「エロティック・インテリジェンス」とは、長期関係の中でも相手を他者として見続けるための想像力の技術です。具体的には、まず「何でも共有しすぎない」ことが挙げられます。夫婦であっても、一人で考える時間や、自分だけの趣味、自分だけの交友関係を持つ方が、相手への興味は持続しやすくなります。次に、相手を役割ではなく一人の他者として見ることです。仕事で頑張っている姿、趣味に没頭している姿、他人と話している姿を見ると、相手を再び魅力的に感じやすくなります。また、意識的に非日常をつくることも重要です。旅行に行く、普段と違う服を着る、新しいレストランに行く、ホテルに泊まる、新しい趣味を始める。脳は新しい刺激に対してドーパミンを出しやすいため、非日常は夫婦関係に新鮮さを取り戻す手段になります。さらに、日常の会話、感謝、ユーモア、視線、褒め言葉、手をつなぐことといった小さな肯定表現も大切です。ジョン・ゴットマンの研究でも、幸福度の高い夫婦ほど日常の肯定表現が多いことが示されています。欲望を維持する鍵は、「近さ」ではなく「適度な距離感」なのです。
参考文献
[1] 日本家族計画協会・ジェクス『ジャパン・セックス・サーベイ2024』2024年
[2] エスター・ペレル(Esther Perel、ベルギー出身の心理療法家・夫婦関係研究者)『Mating in Captivity』2006年
[3] ヘレン・フィッシャー(Helen Fisher、アメリカの人類学者・恋愛研究者)『Why We Love』2004年
[4] エスター・ペレル(Esther Perel、ベルギー出身の心理療法家・夫婦関係研究者)『The State of Affairs』2017年
[5] ロバート・ウォールディンガー(Robert Waldinger、ハーバード大学精神科医・幸福度研究者)とマーク・シュルツ(Marc Schulz、ハーバード大学成人発達研究所研究者)『The Good Life』2023年
[6] ジョン・ゴットマン(John Gottman、アメリカの心理学者・夫婦関係研究者)『The Seven Principles for Making Marriage Work』1999年
本稿で参考にしている主な研究者の略歴、業績
エスター・ペレル(Esther Perel) ベルギー出身の心理療法家・夫婦関係研究者。長期関係における性愛、欲望、不倫、親密性を専門とする。『Mating in Captivity』『The State of Affairs』の著者であり、「愛」と「欲望」は異なる心理状態であると説明した。「エロティック・インテリジェンス」の提唱者として知られる。
ジョン・ゴットマン(John Gottman) アメリカの心理学者・夫婦関係研究者。ワシントン大学名誉教授。数千組の夫婦観察研究から、離婚を予測する「4つの危険因子」や、関係維持に必要な「5対1の法則」を提唱。夫婦関係研究の第一人者として知られる。
ロバート・ウォールディンガー(Robert Waldinger) ハーバード大学精神科医・幸福度研究者。ハーバード大学医学部教授。80年以上続く「成人発達研究」の責任者として、人の幸福を決める最大要因は富や成功ではなく、良好な人間関係であると示した。『The Good Life』の著者。
ヘレン・フィッシャー(Helen Fisher) アメリカの人類学者・恋愛研究者。ラトガース大学研究員。恋愛、愛着、性欲に関わる脳内メカニズムを研究し、ドーパミン、オキシトシン、セロトニンなどの働きと恋愛感情の関係を整理した。『Why We Love』の著者。

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