「夫に触られるとイライラする」 「近づかれるも嫌」 「なるべく関わりたくない」
そんな感覚に悩む女性は少なくない。
結婚当初は、夫に触れられることがうれしかった。安心感もあった。しかし、年齢を重ねるうちに、触れられることそのものに嫌悪感を持つようになる女性もいる。
すると、「もう夫婦として終わっているのではないか」と不安になる。
しかし、夫に触れられたくないと感じる背景には、単純な愛情の消失だけではなく、疲労、ホルモンバランス、夫婦関係の蓄積、不満、役割疲労など、さまざまな要因が重なっている。
今回は、心理学、脳科学、精神医学、家族社会学の観点から、その背景を考えたい。
夫に触れられたくないのは・・・
夫に触れられたくないと感じる女性は、決して珍しくない。
日本家族計画協会の調査では、既婚女性の多くが「配偶者との性的接触に積極的ではない」と答えており、40代以降ではその割合がさらに高くなる(1)。
また、生命保険文化センターの調査でも、40代以降の夫婦では、スキンシップや会話が減少する傾向がある(2)。
最初は「疲れているから今日は無理」という程度だったものが、何年も積み重なると、「触れられること自体が嫌」という感覚になることもある。
精神科医の香山リカ氏は、女性は感情と身体感覚が結びつきやすく、「この人に大切にされていない」と感じると、身体的な接触そのものが負担になりやすいと述べている(3)。
つまり、夫婦関係の中で感情的に満たされていない状態が続くと、身体的な接触にも拒否感が出やすい。
ホルモンや疲労の影響は大きい

40代以降の女性が夫に触れられたくないと感じる背景には、ホルモンバランスの変化も大きい。
更年期に入ると、女性ホルモンであるエストロゲンが減少する。
その結果、
- イライラしやすい
- 疲れやすい
- 眠れない
- 気分が落ち込む
- 性欲が低下する
といった変化が起こる。
婦人科医の対馬ルリ子氏は、更年期の女性は、身体的な不調が強くなることで、「誰にも触れられたくない」「一人になりたい」と感じやすいと指摘している(4)。
また、共働き、家事、育児、介護などが重なる40代女性は、慢性的な疲労を抱えている。
朝から晩まで誰かのために動き続け、ようやく一人になりたいと思ったときに、夫からスキンシップを求められる。
すると、「これ以上、私の近くに来ないでほしい」と感じることもある。
脳科学者の中野信子氏は、人は疲労やストレスが強いとき、他者への共感や受容性が低下しやすいと述べている(5、6)。
つまり、愛情がなくなったわけではなくても、余裕がない状態では、触れられることが負担になりやすい。
関係悪化が身体的拒否感につながることもある
一方で、夫婦関係の悪化が、触れられたくない感情につながることもある。
たとえば、
- 夫が話を聞いてくれない
- 家事や育児を手伝わない
- 感謝がない
- 上から目線で話す
- 妻を女性として扱わない
そうした不満が積み重なると、「普段は何もしないのに、都合のいいときだけ触れてくる」と感じやすい。
作家の酒井順子氏は、長年の結婚生活では、夫婦の不満は大きな事件ではなく、小さな違和感の積み重ねで生まれると書いている(7)。
靴下を脱ぎっぱなしにする。 話を最後まで聞かない。 感謝を言わない。
そうした日常の小さな積み重ねが、「夫に近づかれたくない」という感情になる。
また、セックスレスが長く続いた後、突然夫から求められることに嫌悪感を持つ女性もいる。
普段は会話もない。 褒めてもくれない。 スキンシップもない。
それなのに、夜だけ触れてくる。
そう感じると、「自分は性欲処理の対象なのか」と思い、強い拒否感につながる。
嫌悪感と無関心は違う
夫に触れられたくない感情には、「嫌悪感」と「無関心」がある。
嫌悪感は、「本当に嫌」「近づかないでほしい」「触れられるとイライラする」という状態である。
一方、無関心は、「どうでもいい」「何も感じない」「興味が持てない」という状態である。
精神科医の斎藤学氏は、夫婦関係において本当に危険なのは、怒りよりも無関心だと述べている(8、9)。
嫌悪感があるうちは、まだ相手に期待している部分がある。
「もっと話を聞いてほしい」 「もっと大切にしてほしい」 「もっと理解してほしい」
そうした期待が裏切られているからこそ、怒りや嫌悪になる。
しかし、無関心になると、「どうでもいい」「何をされても気にならない」となり、夫婦関係そのものが終わりに近づいていく。
改善するにはどうすべきか?

夫に触れられたくないと感じるとき、大切なのは、「自分がなぜそう感じるのか」を整理することである。
疲れているのか。 ホルモンの影響なのか。 夫に不満があるのか。 会話不足なのか。
そこを整理しないままでは、「とにかく嫌」という感情だけが積み重なっていく。
また、夫婦関係を改善するには、夫の側はいきなり性的な接触を増やそうとしない方がよい。
まず必要なのは、会話である。
「最近疲れている」 「少し一人の時間が欲しい」 「急に触れられるとしんどい」
そうしたことを、責めるのではなく、自分の状態として伝える。
また、スキンシップも、いきなり性的なものではなく、
- 肩に触れる
- 一緒に散歩する
- 手を軽くつなぐ
- 隣に座る
といった小さなものから始めた方がよい。
脳科学者の中野信子氏は、人は安心感のある接触によってオキシトシンが分泌され、信頼感が高まりやすいと述べている(5、6)。
つまり、夫婦関係に必要なのは、「触れること」そのものではなく、「安心して触れられる関係」を作ることである。
夫に触れられたくないと思うのは、冷たいからでも、夫婦として終わっているからでもない。
その背景には、疲労、孤独、不満、ホルモンバランス、会話不足など、さまざまな理由がある。
だからこそ必要なのは、「触れたくない自分」を責めることではなく、「なぜそう感じるのか」を丁寧に見つめることなのかもしれない。
Q&A
- Q夫に触れられるのも嫌なのは、愛情がなくなったからでしょうか?
- A
必ずしも愛情がなくなったからとは限りません。多くの場合、「触れられたくない」という感覚は、単純な愛情の有無ではなく、身体的・心理的な余裕の低下から生まれます。
たとえば、慢性的な疲労やストレスが蓄積していると、人は他者を受け入れる余裕を失いやすくなります。特に40代以降の女性は、仕事、家事、育児、介護など複数の役割を担っていることが多く、自分のための時間や回復の時間が不足しがちです。
また、ホルモンバランスの変化も影響します。更年期に伴うエストロゲンの減少は、気分の不安定さや性欲の低下を引き起こし、「誰にも触れられたくない」と感じやすくなります。
さらに重要なのは、夫婦間の感情的なつながりです。日常的に「理解されていない」「大切にされていない」と感じている場合、身体的接触そのものが心理的負担として認識されることがあります。
つまり、触れられたくないという感覚は、愛情の消失ではなく「余裕のなさ」や「関係の歪み」のサインであることが多いのです。
- Q夫婦関係の不満が拒否感につながるのでしょうか?
- A
人の身体感覚と感情は密接に結びついています。特に女性は、安心感や信頼感といった心理的要素が、身体的な受容性に強く影響するとされています。
たとえば、「話を聞いてもらえない」「感謝されない」「対等に扱われていない」といった不満が積み重なると、相手に対する信頼感が徐々に低下します。その状態でスキンシップを求められると、「都合のいいときだけ近づいてくる」と感じやすくなり、拒否反応が生まれます。
また、日常の小さな違和感の積み重ねも大きな要因です。一つひとつは些細なことであっても、それが長期間続くことで「この人とは安心して関われない」という認識が形成されます。
その結果、触れられること自体が「侵入」や「負担」として感じられるようになります。これは防衛反応の一種ともいえます。
つまり、身体的な拒否感は突然生まれるものではなく、関係性の中で蓄積された心理的ストレスが、身体感覚として表れている状態なのです。
- Q嫌悪感と無関心の違いは何ですか? どちらが深刻なのでしょうか?
- A
嫌悪感と無関心は似ているようで、心理的には大きく異なる状態です。
嫌悪感とは、「近づかないでほしい」「触れられると不快」といった強い感情を伴う状態です。一見ネガティブですが、この段階ではまだ相手に対する期待が残っています。「もっとこうしてほしい」という思いが裏切られているために、怒りや拒否として表れているのです。
一方、無関心は「どうでもいい」「何をされても気にならない」という状態です。この場合、相手への期待そのものが消えており、心理的な距離はさらに広がっています。
専門的には、夫婦関係においてより深刻なのは無関心だとされています。なぜなら、関係を修復しようとする動機や感情が失われているためです。
嫌悪感があるうちは、適切なコミュニケーションや関係改善によって、再び信頼を取り戻す可能性があります。しかし無関心に至ると、その回復はより困難になります。
したがって、「嫌だ」と感じている段階は、まだ関係を見直す余地がある状態といえるでしょう。
- Q夫に触れられたくない状態をどうすればいいですか?
- A
改善の第一歩は、「なぜそう感じているのか」を自分自身で整理することです。疲労なのか、ホルモンの影響なのか、夫への不満なのか、それとも単純に一人の時間が足りていないのか。原因によって対処法は大きく異なります。
大事なのが、パートナーとのコミュニケーションです。ただし、「あなたが悪い」と責める形ではなく、「私は今こういう状態でつらい」と、自分の感覚として伝えることが大切です。
また、夫の側は、いきなり性的な接触を再開しようとするのではなく、安心感を取り戻すことを優先すべきです。たとえば、一緒に食事をする、会話の時間を増やす、軽く隣に座るといった、負担の少ない関わりから始めるとよいでしょう。
心理学的には、安心できる接触によってオキシトシンが分泌され、信頼感が回復しやすくなるとされています。
つまり、改善の鍵は「触れること」そのものではなく、「安心して関われる関係」を再構築することにあります。
- Qどうしても夫に触れられたくない場合、無理に応じるべきでしょうか?
- A
無理に応じる必要はありません。むしろ、強い拒否感がある状態で無理にスキンシップを受け入れると、嫌悪感がさらに強まる可能性があります。
人は自分の意思に反した身体的接触を経験すると、それがストレスや不快な記憶として蓄積されやすくなります。その結果、次第に「触れられること自体が怖い」「近づかれるだけで不快」という反応に発展することもあります。
大切なのは、自分の感覚を無視しないことです。そして同時に、その状態を放置せず、言葉で共有することも重要です。
「今は疲れていて余裕がない」「急に触れられるとしんどい」といった形で、自分の状態を伝えることで、相手も理解しやすくなります。
また、必要であれば夫婦カウンセリングなど第三者のサポートを活用するのも一つの方法です。
無理に応じることが関係改善につながるとは限りません。むしろ、自分の感覚を尊重しながら、少しずつ安心できる関係を築いていくことが、長期的には最も現実的で有効なアプローチといえるでしょう。
参考文献
(1)日本家族計画協会『男女の生活と意識に関する調査』
(2)公益財団法人生命保険文化センター『夫婦の生活に関する調査』
(3)香山リカ『孤独であるためのレッスン』
(4)対馬ルリ子『閉経のホントがわかる本』
(5)中野信子『不倫』
(6)中野信子『脳内麻薬』
(7)酒井順子『家族終了』
(8)斎藤学『家族依存症』
(9)斎藤学『夫婦という病』


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