既婚者が婚外恋愛に惹かれるのは、単に刺激を求めているからなのだろうか。もちろん、新鮮さや性的な欲求がきっかけになることはある。
しかし実際には、それだけでは説明できない。家庭に大きな問題があるわけではない。夫婦仲も、表面上は穏やかに見える。
それでも、既婚男性も既婚女性も、「家庭の外に、自分を理解してくれる誰かがいてほしい」と感じることがある。婚外恋愛は、欲望だけではなく、孤独、承認欲求、会話不足、自己肯定感の低下など、さまざまな心理が重なって起こる。
今回は、男女それぞれが婚外恋愛に惹かれる背景を、心理学、脳科学、社会学、調査データをもとに考えたい。
「不倫は、性欲だけで起きるのではありません。“自分がまだ異性として価値がある”と確認したい気持ちや、“誰かに理解されたい”という感情が大きく関わっています」
脳科学者の中野信子氏は、婚外恋愛には、性的欲求だけでなく、承認欲求や自己肯定感の問題が深く関係していると述べている(参考文献1、2)。
婚外恋愛は「欲望」だけでは説明できない

既婚男性が婚外恋愛に惹かれる理由として、まず大きいのは「家庭の中で異性として扱われなくなること」である。
結婚生活が長くなると、夫は「父親」になり、妻は「母親」になる。
家の中では、仕事、お金、子ども、家事、親の介護といった現実が優先される。すると、夫婦は「男女」よりも「共同生活者」になっていく。
若い頃にはあった緊張感や高揚感は薄れ、「お父さん」「パパ」と呼ばれる日々の中で、自分が一人の男性として見られていないように感じる男性は少なくない。
実際、既婚男性向けの調査では、婚外恋愛を考える理由として、「異性として認められたい」「男として自信を持ちたい」という回答が多い。
恋愛マッチングサービス各社のアンケートでも、既婚男性が婚外恋愛に求めるものとして、「癒やし」「ときめき」「女性として扱ってくれること」「家庭ではできない会話」が上位に挙がる。
つまり、男性にとって婚外恋愛は、単なる性欲の発散ではなく、「自分はまだ必要とされている」「異性として価値がある」と感じるための行為でもある。
精神科医の斎藤学氏は、男性は社会的役割に強く依存しやすく、仕事や家庭の中で評価が得られなくなると、異性からの承認によって自己肯定感を補おうとしやすいと指摘している(参考文献5、6)。
特に40代から50代の男性は、仕事での立場が変化し始める。若い頃ほど体力もなくなり、会社では管理職として責任が増え、家庭では父親としての役割が中心になる。
そのとき、誰かに「素敵ですね」「頼りになりますね」と言われると、自分を取り戻したような感覚になる。
既婚男性はなぜ婚外恋愛に惹かれるのか
また、既婚男性は家庭の中で孤独を感じていることも多い。
男性は、悩みや弱音を言葉にすることが苦手な人が多い。家庭の中でも、「仕事のことを話しても理解されない」「弱いところを見せられない」と感じやすい。
内閣府の孤独・孤立に関する調査でも、男性は女性よりも「相談できる相手がいない」と感じやすく、特に中年期では、家庭の外に本音を言える相手が少ない傾向が示されている(参考文献8)。
そのため、仕事の悩みや将来への不安を聞いてくれる女性が現れると、男性は急速に親密さを感じやすい。
最初はただの相談相手だったはずが、「自分を理解してくれる唯一の存在」のように感じられ、婚外恋愛へと進んでいくこともある。
既婚女性はなぜ婚外恋愛に惹かれるのか
一方、既婚女性が婚外恋愛に惹かれる理由は、男性とは少し異なる。
女性の場合、婚外恋愛の入り口は、性欲よりも「理解されたい」「大切にされたい」という感情であることが多い。
結婚生活が長くなると、夫婦の会話は事務連絡になりやすい。
「明日の予定は?」 「子どもの送り迎えは?」 「支払いどうする?」
そうした会話はある。しかし、「最近どう?」「疲れていない?」「今日はどんな気持ちだった?」といった心に触れる会話は減っていく。
女性は、感情を言葉にし、共感してもらうことで安心しやすい。
精神科医の香山リカ氏は、女性は「話を聞いてもらうこと」そのものに癒やしを感じやすく、自分の感情を受け止めてもらえない状態が続くと、深い孤独を抱えやすいと述べている(参考文献3)。
そのため、既婚女性が婚外恋愛に惹かれるとき、多くの場合、最初は恋愛感情ではない。
「この人は私の話をちゃんと聞いてくれる」 「この人は私を否定しない」 「久しぶりに一人の女性として見てもらえた」
そんな感覚から始まることが多い。
実際、既婚女性向けの調査では、婚外恋愛に求めるものとして、「会話」「安心感」「理解」「癒やし」が、性的な満足より上位に来ることが少なくない(参考文献7)。
セックスレスと会話不足がもたらす孤独
セックスレスも、婚外恋愛の背景として大きい。
日本家族計画協会の調査では、既婚カップル全体の約6割がセックスレス状態にあり、40代から50代ではその割合がさらに高くなる(参考文献7)。
特に女性は、セックスレスを単に性的な問題としてではなく、「女性として見られていない」「必要とされていない」という問題として受け止めやすい。
夫から求められない。 褒められない。 触れられない。
そうした状態が続くと、「私はもう終わったのだろうか」と感じる女性もいる。
そのとき、誰かが「きれいですね」「一緒にいると楽しい」と言ってくれると、失われていた自己肯定感が戻る。
前に触れた脳科学者の中野信子氏は、人は恋愛初期にドーパミンが分泌されることで、高揚感や自己価値の上昇を感じやすいと述べている(参考文献1、2)。
特に、長年家族として扱われてきた既婚女性にとって、「女性として見られること」は、自分を取り戻す感覚に近い。
つまり、既婚女性が婚外恋愛に惹かれる背景には、恋愛感情だけではなく、「私はまだ女性として価値がある」という確認の意味も含まれている。
婚外恋愛に人は何を期待しているのか

既婚者が婚外恋愛に惹かれるとき、その背景には単なる刺激ではなく、「自分を取り戻したい」という感覚がある。
家庭では、父親、母親、夫、妻という役割が強くなる。 仕事では、責任や成果が求められる。
その中で、人は「誰かに優しくされたい」「異性として扱われたい」「安心して話を聞いてほしい」と感じる。
婚外恋愛には、恋愛そのものよりも、「もう一度、自分が生きていると感じたい」という欲求が投影されることも多い。
とくに40代から50代は、加齢や更年期、仕事の変化、子どもの独立、親の介護などが重なり、「人生の後半をどう生きるか」を意識し始める時期でもある。
そのとき、人は「このままでいいのだろうか」「私は誰かに必要とされているのだろうか」と考えやすくなる。
だからこそ、婚外恋愛の相手に期待するものも、若い頃とは違う。
男性は、癒やしや承認、男性としての自信を取り戻したい。 女性は、会話や理解、女性としての自分を取り戻したい。
婚外恋愛は、そうした“欠けている感覚”を埋めるものとして機能しやすい。
婚外恋愛のリスクと現実
もっとも、婚外恋愛には現実的なリスクもある。
配偶者とのトラブルに発展した場合、最悪の場合は 離婚や慰謝料の問題になるかもしれない。家庭が壊れ、子どもにも影響が出るかもしれない。
また、婚外恋愛によって一時的に孤独が和らいでも、根本的な問題が解決しないまま終わることもあるかもしれない。
「理解してくれる人」が現れたように感じても、実際には、お互いが“都合のよい部分”だけを見せ合っている場合も少なくない。
現実の生活を共有していないからこそ、相手が理想的に見えることもある。
前掲の精神科医の斎藤学氏は、婚外恋愛は「家庭では満たされないものを補うための行為」である一方で、その不足感そのものに向き合わない限り、同じ孤独を繰り返しやすいと述べている(参考文献5、6)。
本当に必要なのは、婚外恋愛を善悪だけで判断することではない。
なぜ、自分は誰かを求めているのか。 何が足りないと感じているのか。 夫婦の中で、何を諦めてきたのか。
そこに向き合うことの方が重要である。
婚外恋愛に惹かれる背景には、男女ともに、「異性として見られたい」「理解されたい」「孤独を埋めたい」という共通の欲求がある。
男性は、承認されたい。 女性は、理解されたい。
しかしその根底には、「自分はまだ必要とされている存在なのか」を確かめたい気持ちがある。
だからこそ、婚外恋愛は単なる裏切りや欲望ではなく、現代の夫婦が抱える孤独や会話不足、自己肯定感の低下を映し出しているとも言える。
さらに、婚外恋愛は、一時的に孤独を埋めてくれるように見えても、長期的には別の孤独を生むこともある。
会いたいときに会えない。 将来が見えない。 家庭を壊す不安がある。 相手の言葉を信じきれない。
既婚者同士の関係は、常に現実との間で揺れ続ける。
そのため、多くの場合、婚外恋愛そのものよりも、「なぜ自分がそこまで誰かを求めるのか」に向き合うことの方が重要になる。
夫婦関係の中で足りなかったものは何か。 自分は何を諦めていたのか。 自分は本当はどんなふうに扱われたかったのか。
そこを見つめ直さなければ、相手が変わって一時的に満足は得られても、時期を置くと孤独感を感じるようになってしまうのではないだろうか。
まとめ
既婚男性が婚外恋愛に惹かれる背景には、性的欲求だけでなく、承認欲求、家庭内での孤独、異性として扱われなくなる寂しさがある。
既婚女性が婚外恋愛に惹かれる背景には、会話不足、セックスレス、理解されたい気持ち、女性として見られたい願いがある。
どちらにも共通するのは、「自分はまだ必要とされているのか」「誰かと深くつながりたい」という欲求である。
婚外恋愛の背景を理解することは、夫婦関係の弱点や、現代人が抱える孤独を見つめ直すことでもある。
Q&A
- Q既婚者が婚外恋愛に惹かれる一番大きな理由は何ですか?
- A
既婚者が婚外恋愛に惹かれる理由は、単なる性的欲求ではなく、「承認欲求」と「孤独感」の組み合わせであることが多いとされています。家庭や仕事が安定していても、日常の中で“自分が個人として扱われていない感覚”が積み重なると、人は無意識に外部へ心の居場所を求めるようになります。
特に夫婦関係が長期化すると、会話は生活の連絡事項中心になりやすく、「あなた自身」を見てもらう機会が減っていきます。その結果、「異性として見られたい」「一人の人間として理解されたい」という欲求が外部の関係に向かうことがあります。
また、心理学的には、自己肯定感が低下している時ほど、他者からの評価や関心に強く反応しやすくなるとされます。そのため婚外恋愛は、刺激的な関係というよりも、「自分の存在価値を確認する場」として機能してしまうケースも少なくありません。重要なのは、こうした心理は特別な人だけでなく、多くの既婚者に起こり得る普遍的な心の動きだという点です。
- Q既婚男性と既婚女性では、婚外恋愛に惹かれる理由はどう違いますか?
- A
既婚男性と既婚女性では、婚外恋愛に惹かれる入り口が異なる傾向があります。男性の場合は「承認」と「異性としての自信回復」が中心になりやすいとされます。家庭や職場で責任が増える一方で、評価される機会が減ると、「男として見られていないのではないか」という感覚が生まれやすく、その空白を埋める形で外部関係に惹かれることがあります。
一方、女性の場合は「理解」と「情緒的なつながり」がより重要になります。夫婦関係が長くなると、会話が機能的・事務的になりやすく、「気持ちを聞いてもらえない」「共感されない」と感じることで孤独感が蓄積します。その結果、「ちゃんと話を聞いてくれる存在」に対して強い安心感を抱きやすくなります。つまり男性は“評価されたい欲求”、女性は“理解されたい欲求”が入口になりやすいという違いがあります。
ただし最終的にはどちらも「自分が必要とされている感覚」を求めている点で共通しており、根本には承認欲求と孤独感が存在しています。
- Qセックスレスは婚外恋愛の原因になりますか?
- A
セックスレスは婚外恋愛の直接原因というよりも、「心理的距離の象徴」として作用することが多いと考えられています。セックスそのものがないことよりも、「触れ合いがない」「異性として扱われていない」「関心を持たれていない」といった感覚が蓄積することが問題になります。
特に女性の場合、セックスレスは“女性としての価値が低下した”という誤った自己認識につながることがあり、それが自己肯定感の低下を招くことがあります。また男性側も、拒否経験の積み重ねから自信を失い、誘うこと自体を避けるようになるケースがあります。このようにセックスレスは、単なる性の問題ではなく、夫婦間のコミュニケーションや感情的な距離の変化と密接に関係しています。
そのため婚外恋愛に発展するケースでは、セックスレスそのものよりも、「会話不足」「感情共有の欠如」「異性としての承認不足」が同時に存在していることが多いといえます。つまりセックスレスは結果であり、原因はその前段階の関係性の希薄化にあることが多いのです。
- Q既婚者の孤独はどのように生まれるのですか?
- A
既婚者の孤独は、「一緒にいるのに孤独」という状態から生まれます。家庭があり、日常的な会話があり、生活が機能していても、「感情が共有されていない」「自分の気持ちが理解されていない」と感じると、人は強い孤独を感じます。
特に中年期以降は、仕事の責任、子育ての終盤、親の介護などが重なり、自分の感情を後回しにしやすい時期です。その結果、「私は何のためにここにいるのか」という存在価値の揺らぎが生まれます。
また、夫婦関係が長くなると、相手への期待を減らすことで関係を安定させる一方で、心理的な距離は広がることがあります。つまり“安定した関係”と“感情的な孤独”が同時に存在するのです。この矛盾が、外部の人間関係への依存や、新しいつながりへの欲求として現れることがあります。孤独は物理的な距離ではなく、「理解されている感覚の欠如」から生まれるため、既婚者であっても十分に起こり得る心理状態だといえます。
- Q婚外恋愛を求める心理は、夫婦関係の改善で解消できますか?
- A
婚外恋愛に惹かれる心理は、必ずしも「相手が悪い」「関係が破綻している」という問題ではなく、「心理的ニーズの不足」から生じていることが多いため、夫婦関係の改善によって緩和される可能性はあります。特に重要なのは、性の有無よりも日常的な会話や感情共有の量です。「今日どうだったか」「何を感じているか」といった小さな対話が積み重なることで、安心感や承認欲求が満たされやすくなります。
ただし、長年の習慣として会話やスキンシップが減っている場合、それを急に修復するのは簡単ではありません。そのため、外部の人間関係やコミュニティ(趣味・友人・オンライン交流など)を通じて自己肯定感を回復することも、結果的に夫婦関係の安定につながることがあります。
重要なのは「どこか一つの関係にすべてを求めないこと」であり、心理的な満足を分散させることで、過度な期待や依存を減らすことができます。婚外恋愛の衝動は、心の不足を示すサインとして捉え、まずは自分が何を求めているのかを整理することが、関係改善の第一歩になります。
参考文献
- 中野信子『不倫』
- 中野信子『脳内麻薬』
- 香山リカ『孤独であるためのレッスン』
- 山田昌弘『結婚不要社会』
- 斎藤学『家族依存症』
- 日本家族計画協会『男女の生活と意識に関する調査』
- 内閣府『孤独・孤立の実態把握に関する全国調査』
- Helen Fisher『Why We Love』


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